一般社団法人GERD・LPRD診療ネットワーク理事長
関 洋介
医療法人社団あんしん会 四谷メディカルキューブ 減量・糖尿病外科センター副センター長 臨床研究管理部部長
私は食道・胃疾患を専門とする消化器外科医として、10年以上にわたって難治性GERD(胃食道逆流症)ならびにLPRD(咽喉頭逆流症)の診療に携わってきました。その経験を通して強く感じたことは、難治性すなわち薬物治療がなかなか奏功しないGERD・LPRD症状を訴えられる患者さんは非常に多くおられること、そして薬物治療(多くはプロトンポンプ阻害薬:PPIs)により十分な症状コントロールが得られなかった場合、次にどのような診断・治療のプロセスを組み立てていくのかに関して、医師の間でも十分に理解されていないことが多いということです。
GERD・LPRDの症状(表現型)は非常に多彩で、胸やけ・呑酸といったいわゆる定型症状を呈する方から、慢性咳嗽や咽頭違和感(のどにピンポン玉が詰まっているような感覚)など、一見すると呼吸器疾患や耳鼻科疾患のように思われる症状(食道外症状)を呈する方もおられます。現代医療は良くも悪くも専門分化が進んでおり、例えばなかなか治まらない咳で悩んでいる患者さんが呼吸器内科を受診したとして、担当医がGERD・LPRDに起因するものを疑わなければ、(結果として)漫然と鎮咳剤やステロイド、抗アレルギー薬を投与され続ける(にもかかわらず改善が得られない)ということが起き得ますし、強い咽頭違和感で耳鼻咽喉科を受診したとして、明らかな他覚的所見が認められなければ、精神的な(メンタルの)問題でしょう、と片づけられてしまう場合もあります。
こうしたことから、消化器内科、消化器外科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、メンタル科など様々な領域の専門家が垣根なくmiddle groundで意見を交換し、疾患に対する理解を深め、難治性GERD・LPRDで悩んでいる多くの患者さんの健康増進につなげるためのプラットフォームを作りたいとの思いから、志を同じくする仲間と一緒に本法人を立ち上げました。
敬愛するミネソタ大学のHenry Buchwald教授の言葉を紹介します。
There is no medical disease. There is no surgical disease. There is just a condition and its treatment.
(内科的疾患であるとか、外科的疾患であるといったことは重要ではない。病気があり、それに対する治療が必要なだけである)
一般社団法人GERD・LPRD診療ネットワーク理事
北方敏敬
Associate Professor of Surgery, Division of General Surgery, Rutgers Robert Wood Johnson Medical School
現在、私は米国で“Foregut Surgeon”として、GERD・LPRDを含む食道良性疾患の診断外科治療に従事しております。特発性肺線維症による進行性呼吸障害が、逆流防止手術後に劇的に改善した患者さんに出会って以来、私はGERD・LPRDの世界に魅了され、この分野に専念してきました。
非常に多彩な症状を呈するGERD・LPRDは、胸やけや呑酸といった典型症状なく耳鼻咽喉・呼吸器症状のみ呈する症例も多く、臨床症状だけで正確に診断することは困難です。GERD大国アメリカにおいても、正確な診断なく漫然と薬物療法を受けている患者や精神的な不定愁訴として適切な治療を受けられずに放置されている患者が沢山います。それ故に、この分野の発展には、食道機能検査の普及が必須だと考えています。
日本の外科学は、癌の切除を中心に発展してきました。リンパ節廓清を伴う癌切除の技量に関しては、世界的に見ても日本人外科医の右に出る者はいないでしょう。しかし、これまで良性疾患に対する外科治療には非常に消極的であったと思います。良性疾患は生命予後には直接寄与しませんが、患者のQOLを著しく悪化させます。正確に診断された良性疾患に対する適切な外科治療は、患者のQOLを劇的に改善します。だからと言って、GERDには外科治療が最適だというわけではありません。GERDは、個々の患者によって重症度も目指す治療ゴールも異なります。GERD治療の中心は内科的治療であることに議論の余地はありません。しかし、重症度が進むにつれ外科的治療を含めた包括的アプローチが必要となります。それ故に、内科・外科といった専門科の垣根を取り払った一つのチームとして、「GERD難民」を作らない体制作りが非常に重要だと考えています。
アメリカで4年前にAmerican Foregut Society、ヨーロッパで2年前にEuropean Foregut Society が立ち上がりました。Foregut Societyは、消化器内科医と外科医が共に議論をしてこの分野の発展に寄与するを目的にしています。
この度、社団法人主導でJapan Foregut Society (JFS)を立ち上げました。今後、Asian Foregut Societyの設立にJFSが中心的な役割を担うことができればと思っております。アメリカやヨーロッパと同様に、今後日本でもGERDが国民病になることが予想されます。みなさん、GERD・LPRD診療の発展のために、是非力を貸してください。日本から世界に向けて発信できるような活動に是非ご参加ください。どうぞよろしくお願いいたします。
一般社団法人GERD・LPRD診療ネットワーク理事
鈴木 猛司
千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 講師
私が耳鼻咽喉科医になりたての頃のお話です。
喉の違和感を訴えて受診された患者様が受診されました。いくつかの耳鼻科を受診して、いろんな検査をやったけれど、原因不明と言われ心療内科を勧められています、と。
私は、その患者様の気持ちを損ねないように、喉頭内視鏡検査の写真を丁寧に説明し、異常がないことを告げました。その患者様は「ほっとしました」と悲しそうな笑顔を見せて去っていきました。
異常を認めない咽喉頭症状の原因がLPRDにある可能性を示したのが24時間下咽頭インピーダンス検査です。私はアメリカ留学中に食道外科の北方先生と出会い、その存在を知りました。「目から鱗が落ちる」とはまさにこのことであり、日本への導入を決めました。しかしながら、PPIなどの強力な酸分泌抑制薬を用いても治らないLPRDが一定数存在します。PPIでは逆流現象は止められないからです。この難題を解決してくれたのが、四谷メディカルキューブの関先生です。難治性LPRDに逆流防止術をしていただき、物理的に逆流を止めることで、多くの患者様を救っていただいています。
北方先生と関先生と私でチームを作り、2013年からこの様な治療を開始し、多くの患者様に感謝の声をいただいております。しかし、日本全国の患者様を救えるわけではありません。このチームを日本全国に広げ、現在お困りの患者様にも、我々の診断治療をお届けできればと思っております。
「ほっとしました」と言って悲しそうな笑顔を見せて去っていった患者様は、他の耳鼻科の診察室を訪ねたことと思います。我々のチームで作り上げた診断治療法を皆様に知っていただき、少しでもそのような患者様のお力になれればと思っております。
一般社団法人GERD・LPRD診療ネットワーク理事
関 朋子
事務局長 Executive Director
現代の医療は専門領域が細分化しており、患者さんはどの診療科を受診したらいいのか迷うことが多々あります。速やかに原因がみつかり、治療につながれば良いですが、難治性のGERD・LPRD症状に悩んでおられる患者さんの中には、いったいどの診療科のどの医師にかかれば解決の糸口が見えるのか分からず、不安な日々を過ごされている方もいらっしゃることと思います。
法人名である、GERD・LPRD診療ネットワークの「ネットワーク」には以下の3つの意味が込められています。まず異なる診療科の医師間をつなぐことで最適治療を一緒に探していくこと、次に患者さんと医師をつなぐこと、最後に患者さん同士をつなぐことで経験や悩みを共有し、有益な情報が得られる場を提供することです。
インターネットやSNSの普及により、真偽の分からない情報が大量にあふれている中、科学的で有益な情報を提供できるよう、努めたいと考えています。